侘助の花が教えてくれたこと〜茨城県水戸市H様〜
このところ、ここ茨城県水戸市では、
どんよりとした曇り空が続いています。
でも、晩秋の曇り空というのも、物悲しさと哀愁が増して
個人的には結構好きだったりします。
先日、茨城県水戸市のH様のお庭を尋ねると
この時期に咲く椿『侘助(ワビスケ)』が見事に咲きはじめました。
今年の秋 あれは9月下旬でしたが、
『侘助の剪定をお願いしたい』とお電話を頂きました。
H様は、亡きお母様が植えられたこの侘助を
とても大事にされているとのことでした。
今までの植木屋さんがご高齢で辞めてしまったとのことで、
当社にご依頼くださいました。
「お客様のご意向だから」と言ってすぐにお引き受けして、
剪定作業に入るというのが大体の植木屋さん達ですが、
でも、11月下旬から 12月にかけて見事な花を咲かせるのであれば、
9月下旬に剪定をしてしまうと、上がって来た蕾を摘み取ることになり、花数は激減してしまいます。
このH様にとって、この侘助が亡きお母様の思い出の花木だとすれば
きっと毎年、この花が咲くのを楽しみになさっていることでしょう。
そうなれば、私たちとしては、「わかりました!」と剪定してしまうことはできず、『今もう蕾が上がりはじめの時期ですから、今剪定してしまうと、この晩秋に花が見られなくなってしまいます。剪定は来年の春にされた方が良いと思います。』
そうご説明し今回の剪定は春に延期となりました。
そして昨日、H様の家を訪ねて見ると、
満面の笑顔で
『ありがとうございました!今までこんなに見事に咲いたのを見たことがありませんでした!』
そう言ってくださいました。
今までの植木屋さんは、
花の時期と剪定の時期の関係などの説明はしてくださらなかったとのことで、
この侘助を何十年もの間、いつも9月下旬に剪定して来たのだそうです。
そのお話を聞いて、悲しい思いをしました。
お客様にとってその木がどんな木なのか、
できれば、そんなところまで把握しながら
お客様と関わっていくべきだと、そう思うのです。
ご依頼を受ける以上、お客様に代わってその木の将来を見越しつつ、毎年ごとにさらに美しく仕立てていかなければなりません。
お客様にその木を楽しんでいただく為に鋏を入れていくべきです。
勿論、お客様のご意向を汲むことは大事です。
でも、お客様が植物の全てをご存知でない場合もあり
それをお伝えするのも、私達庭師の役目ではないでしょうか。
お客様のご意向だからと開花時期を無視して剪定し、
お客様の本来のご希望と反する結果になることは
やはり避けるべきです。
H様の信頼を受けて、何十年も関わったお客様に対し
何故もっと親身になろうとしなかったのか、
どうして、この花を毎年心待ちにしているH様の気持ちを汲もうとしかったのか、
そこを私はとても悲しく思うのです。
今日のH様の笑顔を忘れずに、
これからも、お客様との対話を続けていこうと
そう心に決めて、
侘助の花を見ながら、H様がいれてくださった
美味しいお茶をご馳走になり、帰路につきました。
お客様のご意向は勿論
その庭木がお客様にとってどんな意味のある木なのかを把握しながら、
その庭木にとって、お客様にとって、
一番良いケアをご提供すること、
それが、私達SK齊藤造園のポリシーです。